14.高野山巡礼に思う

東日本大震災から2年を経る

「東日本大震災」から満二年が経過した。平成23年(2011)3月11日午後2時46分、宮城県沖130キロの海底で地震が起きた。モーメントマグニチュード9.0、震源域は東西200キロ、南北500キロの広範囲に及んだ。地上震度は宮城県で7〜6強を観測した。また、海底地震のため観測史上最大の津波が発生、東北地方海岸を高波が襲った。波高10メートル以上〜40メートルの津波が押し寄せたところがあった。地形上で遠浅海岸のところには高波が押し寄せた。また、絶壁海岸や防波堤防は、予見していなかった大波が打ち寄せて地上に浸水、福島原子力発電所の例のように地上の大型設備や構築物が破壊され、歴史ある寺社が津波に呑み込まれ、民家は海水に押しつぶされ、住民はどす黒くなった塩水に呑み込まれた。

満2年経過した時点で、地震と津波による死亡・行方不明者は18,544人と発表された。同時に津波による福島原子力発電所の破壊が起こり、半径30キロの周辺住民は放射能を避けるために退避を余儀なくさせられた。半径30キロを越えた地域でも、風流のために放射能汚染が進み、退避を余儀なくされた飯館村のように、放射能2次災害で苦しむ住民が多く出た。住民は肉親を失い、家を津波に持ち去られたばかりか、水産業・農業・加工業の基盤を一挙に失ってしまった。流通、サービス業は消失してしまい、住民は職業を失ってしまった。働くところが無くなった。これを国難といわずして、何といおうか。菅内閣は一年経ずして倒れてしまった。

メルトダウンした福島第一原子力発電所原子炉のすべての建屋で水素放出ができずに爆発が起こり、2年を経た現在でも使用済み核燃料棒を建屋プールから抜き出すことさえ出来ずにいる。点検休止中だった4号原子炉ですら、停電による発電所冷却ストップで、建屋は水素爆発でぐちゃぐちゃとなった。今でも4号原子炉貯水プールから燃料棒を取り出すことすら出来ずにいる。そしてプール自体の自壊が懸念されている恐ろしい状態が続いている。

原子炉破壊からちょうど2年目、平成25年3月のことである。発電所内の冷却水を循環させて放射能を部分的に除去して、ふたたび発電所の循環冷却設備に戻すシステムが停電事故で循環が止まり、燃料棒プールへの給水が出来なくなった。プール水の高温化と蒸発が進んでいた。冷却水の供給ストップが続けば、燃料棒が空中に露出し放射能放出が始まる。経産省はこの停電事故と原因追求の遅れを国民に知らせず、原子力安全規制委員会への報告もおくれた。これまで、政府は原子力発電所の安全確保を第一義とすべきことを認めてきたが、責任者経産相官僚のこの安全確保遅滞が国会で指摘されてしまった。油断すると、東電側に責任を押し付ける悪癖は、以前として治っていない。後日のことだが、冷却水システムのストップの原因は仮設配電盤の鼠によるショートと東電から発表された。「泰山鳴動鼠一匹」と笑っていられない深刻な事故であった。

その後、またもや原子力発電所に事故が起きた。平成25年4月6日の夕刊記事によると、福島原発第一発電所構内の地上貯水槽から汚染水が120トン漏れ出した事故が起きた。汚染水が120トン、放射性物質は約7100億ベクレル漏れた。先の冷却水停電事故とは関係がなく、地上貯水槽の防水層が破れて地下に漏水したものであった。海岸との距離があるので、海への放射能漏れはないという。それでは、地中にとどまった放射能は溜まったままでいるのか。あわてた東電は汚染水を別の地上貯水槽へのポンプにより移送を始めた。完了まで5日間ほどかかった。やがて、貯水槽の汚染水収納に限界がくる。あとは「円型地上タンクを増設する」しかない。これもいずれ限界がくる。なお、漏水の原因は貯水槽の二重の防水シートの設置ミスと発表された。

これとは別に、原子炉地下へ周りの水が沁み込む問題が次第に重大問題となっている。建物地下室の汚染水の増加がじわじわと進行しているので、あふれた汚染水の海中放出が現実のものとなりつつある。政府は建物周囲を、冷媒を詰めたパイプを埋め込み、地面を凍らせて、建屋地下への浸水を防ぐ対策を東電に命じた。膨大な設備費と運転費用がかかる。それも、この冷凍システムはすぐには完成しない。間に合わない工事であふれた原子炉地下の汚染水は海中に放出されてしまうのか。

最近、発電所地下に沁み込む地下水の問題がクローズアップされている。かなりの水量が常時山側から海岸に向けて移動しており、発電所の地下にもぐりこんで汚染水と混じりあい、発電所の海岸壁から海中に滲みだしているのが発見された。まずいことに、構内地上タンクから汚染水が漏れ出しているのが最近発見されたので、発電所から海中に放出されている汚染水の処理は国レベルの対処が必要になっている。

廃炉するには汚染水の処分も同時に進めなければならないが、処理済の汚染水海中放出は進まず、汚染水は地下貯水槽に増えるばかりで、地獄への転落の道程がみえている。原子力安全規制委員会の新しい原子力安全基準の提案を待って、原子力政策の決定をするという今の政府方針は間違っている。原子力安全規制委員会が廃炉基準と廃棄スケジュールを決めるのではない。国のエネルギー基本政策として、原子力廃棄を含めたエネルギー政策の確立を、われわれは求めているのである。

東京電力はあと20年以上をかけて、使用済み燃料棒や汚染水、発電所施設の解体廃棄をしていくことになっている。チェルノブイリ発電所のように、メルトダウンした燃料を地下に埋め込んだだけにするのか。放射能を帯びた建造物を壊しても、廃棄物を置く場所の確保ができないので、政府と東京電力は廃棄シナリオを書くことができないでいる。

自然を壊して、エネルギーを取り出す事業は産業革命からこの方、国家事業として諸国家に普及してきた。だが、石炭、石油、ウラン燃料からエネルギーを取り出すことは、私たちに生活の豊かさをもたらすことになったが、反面、人類に不幸をもたらし国家間の紛争と人間同士の争いの種を播くことにもなった。これまでを顧みると、環境破壊が進み、人間の幸せな生活を奪うデッドエンドが次第に近づいているように思えてならない。われわれは人智だけで自然を支配できると思いあがってはならない。東日本大震災が引き金となって、人間を苦しめていることを後人に伝えなければならない。

今度の原子力発電システムの破壊は自然が持つ力に人智がかなわないことを示すものである。放射能を吐き出し続ける原子力発電所の敗残の姿は、人間のおごりの戒めになる。使用済み核燃料棒の保管場所さえも持たない電力会社、廃棄物の最終保管場所さえ決めていない政府、地殻変動にさらされる危険極まりない土地に立てられた発電所の発電再開を要求する無理解な政治家と企業家、それに現実から目をそらして、その場しのぎの塗糊策で時を稼ぐしか思いつかない官僚は絶望のトライアングルでしかない。

ドイツ政府は日本の原子力発電の惨状を見て、原子力発電からの撤退を決めた。どこよりも高い電気料を支払っているドイツ国民。日本では一部の政治家が原子力の全面廃止を推進しようとしているが、原子力発電の推進者の政府の動きは緩慢である。これが大きな動きになるといいのだが。

弘法大師様は衆生の救済を願って高野山に籠もってくださっている。その奥の院のそばに、震災被害者の慰霊塔があった。この度、私は高野山に詣でて、災害の犠牲者を供養して献塔してくださっている人のことを知った。立派な供養塔は福岡の前田さんという方の献塔だそうだ。「前田さん有難うございます」。