8. ボランティアの心情をようやく察知
   貴方の心を踏みにじるなんて、御免なさい

 まことに残念ながら、私はボランティア姉妹の気持ちを分からずに、ボランティア中止をお願いしてしまいました。
 平成15年秋、施設の新しい方針として、入所者の理容・美容料を、自己負担してもらうことになった。新しく有料にすることに決まったきっかけは、いまひとつの理容ボランティアグループが、活動打ち切りを通知してきたことだった。「これを機会に有料に切り替えたい」、さらに「美容サービスも有料にする」ということになった。ボランティア姉妹が有料美容の提案を聞いて怒った。「私たちの、これまでの奉仕活動を何と思っているのですか」。
 悪いことに、姉妹はこの一年間、園職員の無礼な態度に怒っていたらしい。その鬱積が、有料美容への切り替え提案が出たところで、爆発した。美容姉妹の怒りの気持ちが、ようやく事務職員を通じて、園長に届いた。園長に対する憤怒の気持ちが、このとき明るみに出たのだった。私にとっては、晴天の霹靂だった。
 ここで、話を横道に入らせていただく。介護保険制度サービスが開始される以前、すなわち、平成11年度以前の「措置時代」の施設では、老人の身だしなみを、寮母職員が工夫しながら、手伝っていた。園内での生活に要する費用を、すべて自費でまかなわねばならぬ老人が多いので、職員が介護の一環として理美容活動をしていた。この職員の懸命な働きを見ていた姉妹のお母さんが、施設内での美容奉仕を、15年前から始められた、ということだった。母子二代にわたる奉仕活動であった。
 やはり有料美容に切り替えたいと、施設の方針を再度説明するために、私は美容室に姉妹を訪ねた。会ってはくれたが、妹さんは、椅子にすわった園長の前に突っ立ったまま、顔を横に向けて腕組みしている。なんということか、いぶかしく思う私だった。「園長も知ってのことでしょうが、園職員の私たちに対する態度は許せません。電話で抗議したのに、長い間、なんの返事もないし、今度は私たちの気持ちを傷つけるような仕打ちをするなんて」と、えらいご立腹だ。そのときの園長は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。
 「なんのことでしょう」私は聞いた。古手職員の非礼と園長の知らん顔が、貴方をそんな気持ちにさせていたなんて「知らなかった…」。横に腰掛けている職員に、振り向きざま「君は知っていたのか」と聞くと、知っていたという。これでは、園長の顔、丸つぶれではないか。
 店の二階に居たお母さんが、時の氏神のように、現れてきてくれた。お母さんに向かって、「えらいことになった」という私に、「園長さんが、わざわざ頼みに来とりんさるのだから」と取りなしてくださった。やがて、辞去する私と職員を見送るために、可愛がっている猫を抱いて、妹美容師さんが店のガラス戸をあけて出てきた。
 後日のことだが、無料ボランティア美容を引き続きお願いすることになった。有料美容とを併用していくことが決まった。しかし、入所者の希望は、無料で顔なじみの姉妹ボランティアに集中することは間違いない。采配役の介護長、ご苦労さまですね。